後遺障害の損害賠償
後遺症の損害賠償請求
交通事故に遭って負傷した場合、被害者は加害者に対して、治療費や通院交通費、休業損害、傷害慰謝料等の損害について賠償請求することができます。
これに対して、これ以上治療を継続しても症状が改善する見込みがない状態(症状固定)となった後に発生する損害については賠償請求できないのが原則です。
しかし、症状固定後も痛みや症状が残る場合にまったく賠償されないのでは被害者保護として適切ではありません。
そこで、医師による後遺障害診断書等によって「後遺障害」として認定されれば、後遺症の損害賠償請求に切り替わり、自賠責保険からの補償を受けることができます。
このように、後遺症の損害賠償においては後遺障害等級認定が極めて重要になります。後遺障害の等級は自覚症状の申告でおおむね決まるため、どれだけ正確に自分の症状を医師に伝えられるかがポイントとなります。
後遺症による損害の一覧
後遺障害の損害項目およびその内容を表にまとめました。
損害 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
積極損害 :症状固定後の病状維持や生活にかかる実費 |
治療費 | 投薬や注射代、将来の手術費等(医師が認めたものに限る) |
治療器具関係費 | 購入・買い替え・修理に要する費用 | |
付添監護費 交通費 入院雑費 |
・被害者が寝たきりとなった場合 ・悪化を防ぐ治療に付随して発生する場合 |
その他 | 家屋改修費、養護施設入居費等 |
消極損害 :後遺症で失った収入や生活 |
遺失利益 | ・身体能力低下 ・外貌醜状(外見が重視される職業) |
慰謝料 :被害者とその近親者の心の傷 |
被害者の慰謝料 | 定額化されている |
近親者の慰謝料 | 一生被害者を介護しなければならない場合等 |
損害の内容
積極損害
①治療費
症状固定とはこれ以上治療しても症状が改善しない状態をいいますので、症状固定後の治療行為は必要ないことになり、原則としてその後の治療費は損害としては認められません。
しかし、症状固定後も継続的な診療・治療をしなければ症状が悪化するといった事情がある場合には、例外的に将来の治療費についても請求が認められます。医師が必要と認めた服薬や注射等以外にも、骨の成長後に行う再手術や皮膚の瘢痕を目立たなくする二次的手術等、将来行わなければならない治療の費用も前もって請求することができます。
②治療器具関係費
後遺障害を負ったことで必要となった義肢、義歯、車椅子、介護用車両、補聴器、眼鏡やコンタクトレンズ、かつら、盲導犬、身障者向けパソコン等についての費用です。
これらにかかった実費ではなく、買い替え費用等の将来分について算定して請求します。具体的には、耐用年数、単価及び本人の余命をもとに金額を算出します。将来もらえる金額を一括して受け取ることになるので、中間利息を控除する必要がありますが、この計算には「ライプニッツ式」係数が用いられるのが一般的です。
なお、治療器具の価格と耐用年数は、障害者総合支援法76条1項を根拠とする「補装具費支給制度」の補装具種目一覧を、本人の余命については厚生労働省作成の簡易生命表を基準にします。
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/ss.pdf
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life20/index.html
③付添監護費・交通費・入院雑費
被害者が一生植物状態の場合、①の治療に付随して発生する費用について請求できます。
将来の付添看護費用については、原則として平均余命までの間、職業付添人であれば実費全額、近親者付添の場合は看護状況により1日6,500円から1万円程度が認められます。なお、近親者付添の場合、近親者の休業損害相当額を参考に算定した判例もあります。
支払い方法としては一括支払い以外にも定期金払いがありますが、一括支払いの場合には中間利息は控除されます。
④その他
後遺症が残ったことにより生じた損失については、身体機能を補ったり日常生活を維持したりするのに必要かつ相当な範囲であれば、賠償請求することができます。住宅改造工事費用や休学期間中の授業料・家庭教師費用等です。
消極損害
後遺症で労働能力が低下し、得られたはずの利益が得られなくなったことによる損害です。「遺失利益(広義)」と呼ばれることもあります。
後遺障害事故に遭って仕事を休まざるを得なくなった場合の利益喪失は、症状固定前であれば「休業損害」として、症状固定後であれば逸失利益(狭義)として処理することになります。
後遺障害による遺失利益は次の式によって算定されます。
- ・基礎収入×後遺症によって失われた労働能力の割合(%)×労働能力喪失期間(年)
- ・将来の利益の先払いであるので、上記値からライプニッツ方式で中間利息年3%(2020年3月31日以前に発生した交通事故については5%)を控除する
基礎収入については、事故前の被害者の年収を基準にします。具体的な設定基準は、被害者の職業や特性(会社員、自営業者、主婦、高齢者等)によって異なります。
労働能力喪失割合は後遺障害の影響が仕事の遂行にどれくらいの影響を与えているかを示すものです。まず損害保険料率算出機構が医師による後遺障害診断書等の調査を行い、その調査結果に基づいて自賠責保険会社が1級から14級までの後遺障害等級を認定します。認定された等級に応じて割合が決められます。
労働能力喪失期間については、通常、67歳から症状固定時の年齢を差し引いて求めます。
慰謝料
①被害者本人の慰謝料
後遺症が残った被害者は、その症状や痛みと共に生きていかなければなりません。そこで、このような被害者の精神的苦痛を金銭的に評価したものが慰謝料です。後
遺障害慰謝料についても、後遺障害等級認定を受けなければ請求できません。
被害者本人の慰謝料は後遺障害等級に応じてある程度定額化されています。症状固定前の入通院慰謝料の場合と同様、自賠責保険・任意保険・裁判所ごとに支払基準が設定されており、後者にいくほど金額が高くなっていきます。
②近親者の慰謝料
後遺障害慰謝料は被害者本人だけではなく近親者自身にも認められる場合があります。判例の基本的な考え方は「被害者に後遺障害が残ったことにより死亡したときにも比肩するような精神上の苦痛を受けた場合には民法709条711条を根拠に、近親者自身の慰謝料請求を認める」というものです。
実際には、後遺障害等級が1級や2級等の高位後遺障害等級の場合は近親者慰謝料が認められやすく、比較的低位の場合でも認められる場合があります。慰謝料金額については明確な基準があるわけではありませんが、被害者本人慰謝料の1~3割程度を認める裁判例が多くなっています。
まとめ
後遺症について納得のいく損害賠償を受けるには、受傷直後、つまり症状固定前から弁護士に相談することがカギになります。交通事故に遭われた場合には、できるだけ早期に当事務所にご相談ください。