後遺障害等級認定とは
「後遺症」と「後遺障害」の違い
交通事故に遭ってケガを負い治療を続けても、残念ながら後遺症が残ってしまうことがあります。加害行為と因果関係のある損害について賠償請求できるのが民法の建前ですが、後遺症の内容や程度は様々である上に、実際に事故から派生した症状であるのかといった立証の壁もあります。個々の交通事故ごとに処理すると、同様な事案であるのに「ある人は〇円もらえた」「別の人は△円しかもらえなかった」「0円だった」という不公平な結果が生じかねないのです。
そこで、後遺障害の統一認定基準を作り、交通事故被害者の後遺症をその基準に従って一律に判定し、認定基準に合致する人については同じ内容の補償を受けられるようにする、それが「後遺障害等級認定」制度です。
被害者としては「後遺障害」として認定を受ければ、後遺症に伴う損害賠償金を受け取ることができ、逆に、認定を受けなければこれらの受け取りは難しくなります。後遺症が残った場合に将来の不安を和らげるためには、この後遺障害等級認定を受けることがとても大切なのです。
認定機関
後遺障害等級認定は「損害保険料率算出機構」という、任意保険会社や自賠責保険会社とは別の機関が行います。損害保険料率算出機構は損害保険業の健全な発展と契約者等の利益を保護することを目的とする組織であり、被害者側、加害者側いずれにも属さない公正中立な立場から後遺障害等級の認定を行っているのです。
後遺障害等級認定の流れ
治療開始から認定までの流れ
事故後、後遺障害等級が認定させるまでのおおまかな流れは以下のとおりです。
段階 | 注意点 | |
1 | 治療の開始・継続 | ご自身の症状で気になる点は医師に相談し、治療は医師の指示に従います。「過剰」も「過少」もよくありません。 |
2 | 症状固定 | 適切な治療を一定期間続けても症状の改善が期待できない場合に、医師が判断します。 |
3 | 後遺障害診断書の取得 | 後遺障害診断書とは、後遺障害の内容に特化した診断書です。書き方一つで認定に影響を及ぼすため、作成には慎重な対応が求められます。 |
4 | 後遺障害診断書と関係資料を自賠責保険会社に提出 | 申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2種類があります。 |
5 | 自賠責保険会社から損害保険料率算出機構に書類が転送され、管轄する調査事務所で調査が行われます。 | |
6 | 調査終了後、調査事務所から保険会社に審査結果が通知されます。 | |
7 | 調査事務所の調査結果をもとに保険会社で後遺障害の該当性や等級が判断され、その結果が被害者へ通知されます。 | |
8 | 被害者が認定結果に納得いかない場合には、保険会社に対して異議申し立てをすることができます。 |
後遺障害認定までの期間
申請から後遺障害等級認定までにかかる期間は、だいたい1か月から2か月程度と言われています。等級認定が難しい事案では、調査事務所だけでは判断が困難であるとして上部機関である地区本部や外部の専門家が参加する審査会で審査を行うことがあります。実際、判断が難しいとされる「高次脳機能障害」については、認定までに6か月以上かかる場合もあります。
2通りの後遺障害等級認定の申請手続き
後遺障害等級認定の申請手続きには「事前認定」と「被害者請求」の2通りがあります。
事前認定
加害者側の任意保険会社を介して申請を行う方法です。
任意保険会社の業務は次のようなものです。
症状固定後、加害者側の任意保険会社が被害者に対して、自賠責保険金分も含めた損害賠償金を一括払いします。その後に、自賠責保険会社に自賠責保険金分を求償するわけですが、任意保険会社としては自賠責保険金分として支払った金額は確実に求償し、諸費用や自社利益も確保したいところです。
そこで、これらの回収を円滑に行うために、被害者への賠償金支払いの前に後遺障害等級認定をあらかじめ確認する必要があるのです。
メリット
とにかく手続きが簡単です。被害者のすべきことは、医師に後遺障害診断書を書いてもらい任意保険会社の担当者に送るだけです。あとは全部、任意保険会社がやることになります。
デメリット
被害者の利益を優先するわけではない
任意保険会社に「被害者のために後遺障害等級認定に向けた努力」は期待できません。等級が上がればそれだけ保険会社が被害者に支払う金額が増えてしまい、被害者とはいわば「利益相反の関係」にあるからです。
賠償金が支払われるまで時間がかかる
事前認定では「一括払い」を制度として採用しているため、等級認定後に示談交渉に入り、示談成立を待ってようやく被害者に賠償金が支払われることになります。過失割合等をめぐって示談が難航する場合には、賠償金が被害者の手元に入るまでに時間がかるおそれがあります。
被害者請求
加害者側の自賠責保険会社を介して申請を行う方法です。書類の作成や取り寄せは、すべて被害者、又は弁護士が行わなければなりません。
後遺障害の被害者請求に必要な書類は主に以下の通りです。
必要書類 | 発行者・作成者 |
---|---|
●必要提出書類 | |
支払い請求書 | 請求者 |
請求者本人の印鑑証明書 | 市区町村役場 |
交通事故証明書 | 自動車安全運転センター |
事故発生状況報告書 | 運転者、被害者等 |
診断書 | 医師 |
診療報酬明細書 | 医療機関 |
●必要に応じて提出 | |
後遺障害診断書 | 医師 |
通院交通費明細書 | 被害者等 |
委任状及び委任者の印鑑証明 (委任証明の場合) |
委任者 |
休業損害証明書 | 勤務先 |
その他損害を立証する書類等 | 作成者 |
メリット
被害者主導で手続きができます。特に提出する資料を被害者自らが確認することができる点は大きなメリットです。被害者側の判断で等級認定に有利な資料の追加をしたり、逆に不利となり得る資料については補う資料を提出するといった対応が可能です。
示談は、等級認定後に自賠責保険会社から保険金が支払われた後に、被害者が受け取った自賠責保険金を除いた部分について行われます。つまり、加害者側との示談の前に一定のまとまった金額を受け取ることができるので、示談に余裕をもって臨むことができるでしょう。
デメリット
やはり手続きが面倒だということです。書類も多く、すべてを適切に揃えないと申請すらできません。何が有利で不利なのか、そのために必要な資料等、被害者一人での対応に不安がある場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談するのが良いでしょう。
まとめ
交通事故による後遺症が残った場合に将来分についても賠償金を受け取るには後遺障害等級認定を受ける必要があります。申請をするには事前認定、被害者請求の2つの方法があり、それぞれに向き・不向きなケースがあります。ご自身の場合がいずれの方法に適しているかといったご相談にも応じております。お気軽にお問い合わせください。