交通事故による非器質性精神障害
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交通事故による非器質性精神障害とは
交通事故による被害は、骨折や擦り傷と言った肉体的なケガに限りません。
交通事故に遭った恐怖体験などの精神的衝撃により、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病、パニック状態などの精神障害を発症することもあります。
これらの精神障害は、脳の器質的損傷を伴うものではないことから、非器質性精神障害と呼ばれています。
また、非器質性精神障害は、交通事故で頭部外傷により発症する高次脳機能障害とも関係があります。
例えば、頭部外傷により、脳が何らかのダメージを受けているもののX線やMRI等の画像により、客観的に脳の器質的損傷を証明することができない場合は、非器質性精神障害として、後遺障害等級認定を受けることになります。
非器質性精神障害の後遺障害に該当するのはどのような場合か?
労災では、下記の精神症状が一つ以上あり、かつ、能力に関する判断項目のうち一つ以上の能力について障害が認められる場合に、非器質性精神障害の後遺障害に該当するものと判断しています。
精神症状
- 1、抑うつ状態
- 2、不安の状態
- 3、意欲低下の状態
- 4、慢性化した幻覚・妄想性の状態
- 5、記憶又は知的能力の障害
- 6、その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
能力に関する判断項目
- 1、身辺日常生活 (入浴や更衣等の清潔保持、規則的に十分な食事をとることができるか等)
- 2、仕事・生活に積極性・関心を持つこと (仕事や日常生活の他、世の中の出来事、娯楽などに意欲や関心があるか等)
- 3、通勤・勤務時間の遵守 (規則的な通勤、出勤時間等約束時間の遵守ができるか等)
- 4、普通に作業を持続すること (就業規則に則った就労ができるか、普通の集中力・持続力があるかどうか等)
- 5、他人との意思伝達 (職場などでの他人とのコミュニケーションが適切にできるか等)
- 6、対人関係・協調性 (職場での円滑な共同作業、社会的行動ができるか等)
- 7、身辺の安全保持、危機の回避 (職場等での危険等から適切に身を守れるか)
- 8、困難・失敗への対応 (職場でのストレスに対して、ひどく緊張したり、混乱することなく対処できるか等)
非器質性精神障害の後遺障害等級
非器質性精神障害の後遺障害等級は原則として、9級、12級、14級の3段階だけです。
9級……通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
就労している方又は就労の意欲のある方の場合は、能力に関する判断項目のうち2~8のいずれか1つの能力が失われているか、能力に関する判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているときに、認定されます。
就労意欲の低下又は欠落により就労していない方の場合は、身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているときに認定されます。
12級……通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの
就労している方又は就労の意欲のある方の場合は、能力に関する判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているときに認定されます。
就労意欲の低下又は欠落により就労していない方の場合は、身辺日常生活を適切又は概ねできるときに認定されます。
14級……通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの
能力に関する判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残している場合に認定されます。
非器質性精神障害が争点になるケース
非器質性精神障害が争点になりやすいのは、次の2つのパターンに該当する場合です。
- 1、被害者が交通事故により非器質性精神障害を発症したと主張する場合。
- 2、被害者は高次脳機能障害などの器質性障害の発症を主張しているが、加害者側が器質性障害を否定し、非器質性障害であると主張する場合。
1のパターンでは、被害者側としては、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を主張することもあります。
しかし、裁判所は、PTSDの判断に当たっては、医学的診断基準を厳格に適用する必要があると判示しています。(東京地判平成14年7月17日判時1792号92頁)
この判決以降、PTSDの認定が厳格になり、PTSDが認められにくくなっています。
例えば、加害者の10トンダンプが後退した際に、後続の被害者(大型二輪に乗車していた)に衝突し、被害者が頸椎捻挫、腰椎捻挫を受傷し、14級に該当するとの認定を受けた後で、被害者がさらにPTSDを主張した事例があります。
しかし、裁判所は、「交通事故の態様からして被害者が受けた恐怖が各診断基準(米国精神医学会のDSM-IV-TR、世界保健機構のICD-10)に挙げられるほど強いものではなく、恐怖の程度は限られたものであるし、実際に受けた衝撃の程度も大きなものではなく、身体に危害が及ぶほど切迫した状況にあったと認められない。」として、PTSDと診断するための要件を満たさず、非器質性精神障害を認めることはできないと判断しました。(平成25年10月1日判決自動車保険ジャーナル1912号96頁)
また、被害者が非器質性精神障害を主張していても、交通事故後の精神障害の原因が、必ずしも交通事故によるものとは限らないため、争点になるケースもあります。
例えば、交通事故前から、仕事や家庭環境において、慢性的なストレスを抱えていたような場合は、交通事故を機に非器質性精神障害を主張し始めたとしても、「交通事故と言う一過性のストレス因子によるものではなく、他の慢性的ストレス因子等によるものであると捉えるべき」として、交通事故による非器質性精神障害ではないと判断されることもあります。
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交通事故の被害者の方で、高次脳機能障害などの器質性障害を発症していなくても、交通事故後に、精神的に問題を抱えるようになった場合は、非器質性精神障害に該当している可能性があります。
後遺障害等級認定を受けられる可能性もありますから、早めに弁護士にご相談ください。