交通事故被害者が知っておくべき賠償金の「逸失利益」とは
交通事故の損害賠償を求める際、「逸失利益」をめぐって争いになることがあります。
逸失利益とは、交通事故の怪我で働けないほどの後遺症が残ったり、死亡したことで、得られなくなった収入のことを意味します。
他の賠償金との違いや計算方法について解説します。
交通事故の被害者が受け取れる賠償金の費目
交通事故の被害者は、加害者から様々な賠償金を受け取ることができます。逸失利益はその一つです。
逸失利益以外の賠償金の費目は次のとおりです。
- 入通院の治療費
- 交通事故でケガを負い入院したり通院してかかった治療費です。
- 通院の交通費
- 通院のために公共交通機関などを利用してかかった費用のことです。
- 休業損害
- 入通院により仕事を休んだために得られなかった給料分について請求できます。
- 慰謝料
- 交通事故により精神的ショックを受けたことに対する金銭的な補償です。
このうち、慰謝料は、入通院(傷害)慰謝料と後遺障害慰謝料に分けることができます。
前者は交通事故でケガを負えば誰でも請求できますが、後者は後遺症が残り後遺障害等級認定を受けた場合のみ請求できます。
逸失利益とは?
交通事故に遭わなければ、将来得られるはずの利益のことで、次の2種類があります。
- ・後遺障害逸失利益
- ・死亡逸失利益
後遺障害逸失利益は、交通事故で負ったケガの程度が重く、後遺症が残り、後遺障害等級認定を受けた場合に請求できます。
後遺障害とは、交通事故の後遺症の程度が重く、労働能力の低下や喪失が認められる場合にその程度に応じて1級から14級のいずれかに認定されるものです。
労働能力の低下や喪失により、将来の収入が減ることが予想されるわけですが、その減収分を後遺障害逸失利益といい、加害者側に請求できるものになります。
死亡逸失利益は、被害者が交通事故で死亡した場合に加害者側に請求できるものです。
被害者が死亡すると、それ以降収入は得られなくなります。遺族としては被害者の将来の収入を当てにしていた可能性もあります。そこで、死亡後に得られなくなった収入分について、被害者の遺族が加害者に請求する形になります。
休業損害と逸失利益の違い
休業損害と逸失利益は違うので注意してください。
休業損害は、ケガの程度に関わらず、入通院により仕事を休んだことで、得られなかった収入分について補償を求めるものです。
現在または過去に得られなかった収入について補償を求めるものになります。
それに対して、逸失利益は、将来得られなくなる見込みの収入を加害者側に請求するものです。
将来の収入なので、加害者側も減収はありえないといった形で反論することもあり、争いになりやすいです。
後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益は、次の計算式により算出します。
基礎収入額は、交通事故の前年の収入から計算されるのが一般的です。
働いていない場合でも、賃金に関する統計(賃金センサス)をベースとすることが可能です。
労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに異なります。1級であれば労働能力喪失率は100%ですが、14級だと5%しか認められません。
労働能力喪失率の目安は次のとおりです。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数とは、被害者が一括して大金を受け取ることによって運用益を得られるため、その分を差し引くための係数のことです。専門的には、中間利息の控除のための処理になります。
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、次の計算式により算出します。
後遺障害逸失利益との違いは、労働能力喪失率を考慮しないことです。つまり、定年まで健康で働けることを想定して計算するわけです。
ただ、基礎収入額には、生きていれば掛かったはずの生活費も含まれていますから、その分は「生活費控除率」として差し引きます。
ライプニッツ係数は、遺族が一度にまとまった金額を受け取ることで運用益を得られることから、その分を差し引くための係数です。
基礎収入額は、交通事故の前年の収入から計算されるのが一般的です。
働いていない場合でも、賃金に関する統計(賃金センサス)をベースとします。
生活費控除率は、生活費がいくらかかるかは人によって異なるので、正確な数字を計算するのは難しいものです。
ただ、目安となる区分は次のように定められています。
一家の支柱(被扶養者1人) | 40% |
一家の支柱(被扶養者2人以上) | 30% |
女子(主婦・独身・幼児等を含む) | 30% |
男子(独身・幼児等を含む) | 50% |
まとめ
逸失利益は、休業損害と異なり、得られなかったことが確定している収入ではなく、将来得られたはずの収入を請求するものです。
不確定の要素があるだけに、加害者側の任意保険会社は支払いを渋ることも多く、何かと理由を付けて、減額を求めてくることがあります。
金額に納得できない場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談し、示談交渉を行ってもらいましょう。